私の自転車と周辺紹介

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2023年11月  中村 淳 (第24代・昭和56年卒)  [記事番号:b0086]
自転車を見て/自転車に乗って考えること  (資料:無し )

自分基準で,こんな自転車がカッコいい,というこだわりのいくつかを紹介したい.勝手な戯言なので,異論のある方も大目に見ていただきたい.

競走馬のカッコよさは,馬だけでは成立せず,優れた騎手が駆って疾走する姿にあるとも言われる.それをそのまま自転車にスライドしたら,われわれの大多数はカッコいい自転車とは縁がなくなる.われわれはアンクティルでもメルクスでもモゼールでもないからだ.

しかし,彼らのジタンやデローザは彼らが乗っていなくても美しい.サイスポやニューサイに載ったそれらの写真は,自転車しか写っていないのに,彼らが乗ってアルプスやTTステージやベロドロームを駆け抜ける姿を彷彿させる.別カテゴリーの乗り物だが,フェラーリ512BBやヤマハYZR OW35もそれら単独で美しい.

自転車には,その性能を引き出すための機能美がある.それは優れた乗り手と優れた自転車が協調したときの機能美だが,自転車単体ではそれが様式美となる.それはフレームのジオメトリーやパーツの選択やセッティングで具現化する.

その文脈で自分はたとえば,ハンドルバーのトップを,サドルトップより一見してわかる程度に下げたい.これは腹筋や背筋の強い人たちには何でもないことだろうが,筋力の衰えた自分には厳しい.ハンドルを高く,近くすれば楽なことはわかっているが,それはしたくない.それで妥協点として,両者をほぼ同じ高さにしている.様式美の追求には筋力が必要だ.

既にお分かりかと思うが,この私的自転車エステティクスが特に焦点を当てているのは1970–80年代だ.アンクティルはそこから外れているが,それは自分が彼のファンだからだ.チネリ#65クリテリウムという,なで肩のハンドルバーは,記憶によれば確かTipo Anquetilという別名があったと思う.実際,多くの写真で彼がそのようなハンドルバーを握っている姿を見る.ハンドルの下部を握って長時間延々とTTを走り続ける(ために,腕と干渉しないようにバー上部の肩がカーブしている)強い前傾の姿はとても美しい.それで,自分のロードレーサーにもこのバーを付けている.

自転車の構成やセッティングは,ある意味,自分が憧れる姿に同化したいという望みの結果でもある.破綻さえしなければ,悪いことではないと思う.そしてその自転車を乗りこなすために努力する.それができる限りは.

様式美には,体格の理由で不可能な条件もある.自分の好みでは,ホリゾンタル フレームのヘッドチューブは上下ラグの間隔が少なくとも3センチ程度は欲しい.するとヘッドチューブが12センチは必要になる.合理的な理由からではない.それが美しさの基準だと思い込んでいるからだ.しかしもっと大柄な人は,それじゃヘッドチューブが短くてカッコ悪いと考えるかもしれない.でも自分はヘッドチューブが20センチの自転車には乗れない.だから自分を否定しないぎりぎりのところを合格点にする.ヘッドチューブ長を稼ぐために,トップチューブをホリゾンタルでなくスロープドにするかといえば,それもしない(そもそもハンドルが高くなる).このこだわりがなければもっと楽なのに,とも思う.

時代の流れで自転車のスタイルも変わる.それが好都合にも不都合にもなる.1990年ころまで,ロードレーサーの最小ギヤ比はアマチュアでも42/21 = 2が一般的だった.踏めもしないのに.自分はふだん41/23 = 1.78を使っていたが,それがカンパ駆動系の許容限界だったからだ(山用スペシャルとしてRDをクレーンにして41/28 = 1.46も使った).しかし,ランス アームストロングが高い回転数で勝ちまくって,低レシオのギヤが認知され出した.カセットギヤの多段化やFD/RDのキャパシティー向上の恩恵もあり,最小ギヤ比はどんどん下がっていった.「ロードの最小ギヤ比は2」という戒律を守ってきた人々はどう思ったことだろう.いずれにせよ,大きなスプロケットもRDの長いケージも引け目を感じることはなくなった.とはいえ,現在のデローザやコルナゴの完成車が付けている34Tというロー側スプロケットは,自分の美意識ではアウトだ.

プロにとってロードレーサーは勝負の道具だから,美しさなんて後付けのようなものだ.一方,ランス登場前後のトルク型から回転型へのギヤの移行,そしてスチール/ホリゾンタルからカーボン/スロープドへのフレームの移行は流行の大きな変化だった.そのタイミング以降にサイクリングを始めた人や,それ以前のスタイルに行き詰まりを感じ,そうした変化を受け入れた人は,それをカッコよさと感じただろう.しかし以前のスタイルに執着があり,変化に乗り切れない自分は,今も宗旨変えができていない.ストレートなフォークブレーズを見るとがっかりする.

以上はロードレーサーが主体の話だが,自転車に対する自分のデザイン感覚はロードレーサーもクラブモデルもランドナーも,基本的に変わらない.昔々,イギリスでもフランスでも,ロードレーサーに泥除けとキャリアとバッグをつければクラブモデルやスポルティーフになった.それが日本に紹介され,ラフロード適性を向上させたランドナーになった.少なくともデザイン的には,それらの間に大きなちがいは感じられないし,自分にはむしろ,現代のカーボンファイバー製でスロープド トップチューブのいわゆるロードバイクが変わり種に見える.

自分が現代の自転車に乗って改めて感じるのは,5/6速ボスフリーの時代に比べてシフト性能が抜群によくなったことだ.といっても自分はダブルレバー変速だが.たとえば登坂ですでに相当トルクをかけているとき,そこからシフトダウンするには,以前ならレバーを操作してもがちゃがちゃ鳴るだけでチェーンがなかなか乗り移ってくれなかった.しかし今はあっさりシフトが終わる.それは改善されたF/Rギヤの歯形とよく撓むチェーンのおかげだ.ただし,あまり気にする必要はないかもしれないが,変速時に一瞬ペダルのトルクを抜くようにしているし,身体が辛くなるぎりぎりまで我慢せず,早めにローにシフトするようにもしている.

また,先にも書いたが,カセットギヤの多段化のおかげで,ギヤ比の1段の変化率が小さくなり,足への負担も小さくなった.これはとてもありがたい.1段の変化率が小さいギヤ設定といえば,かつて,ボスフリーの段数が少なく歯数間隔が粗かったので,その1段の半分の変化率になるようにFギヤのアウターとインナーの歯数をとり,FDとRDを交互に操作するやり方などもあった.たとえば6段フリー13-15-17-19-21-23の平均変化率(23/13の5乗根 = 1.121)の平方根1.059の変化率になるようにFギヤを設定(50-47)する.しかし実際これをダブルレバーで交互シフトするのは本当に面倒くさく,ギヤ比範囲が(Fのアウターとインナーが近接するので)大きく取れず,勾配変化が小さいコースでしか使えなかった.

もう一つ感心するのは,シールド ベアリングの性能だ.本当にメンテナンスが楽になったし,滑らかな回転を実感する(ヘッドパーツだけはいまだにリテーナー式だが).先日ランドナーで走行中,右クランクを強く踏み込むときに「カキン」というショックが来た.ペダル,クランクと締め込みを確認したが問題ない.それで最後にBBを確認すると,右がわずかに緩んでいた.それを適当に締め込んだだけで解決した.以前なら左ロックナットと左ワンを緩め,右ワンを締め込み,左ワンと左ロックナットを玉当たりを見ながら締めていた.しかもロックナットの締め込みの前後で玉当たりが変わるので,それを見込んで締める必要があった.それに,今はBBと工具の結合が確実で,かつての右ワンを緩めたり締めたりするときにスパナを滑らせて危険な目に遭うようなリスクもほとんどない.

ところで,自転車の性能は向上したが,ライダーの性能は明らかに落ちている.それで,長く続けるために「頑張りすぎないこと.走る動作に没頭(自分にはその傾向がある)しないこと.こまめに休み,景色を楽しみ,リラックスすること」そして「自転車やメカにこだわりすぎないこと」を心がけている.

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