私の自転車と周辺紹介

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2024年1月  中村 淳 (第24代・昭和56年卒)  [記事番号:b0087]
ギヤ歯数配列の考え方と視覚的な評価方法  (資料:無し )

2023年11月に投稿した記事「自転車を見て/自転車に乗って考えること」の中で,F/Rギヤの歯数配列についての考えを書いたが,その背景に触れていなかった.ここにその数値的根拠を考察し,同時にそれを視覚的に評価する方法を紹介したい.

みなさんは,スプロケットの歯数配列が,多くの場合,等差数列(隣り合うギヤの歯数差がすべて同じ)になっていない理由を知りたくなったことはないだろうか.
「いやいや,俺のは13から1枚ずつ19までの7段だよ」
それはもしかしてサンツアー ウルトラ7?…… 確かに1980年代ころまでのボスフリーは歯数が任意に選べたので,こんなTT専用のような配列も可能だった.しかしその後,シマノHGなど変速効率に優れた歯型のギヤがアッセンブリーで製品化されて,スプロケットはあらかじめ設定された歯数の組み合わせの中から選択する(せざるを得ない)状況になった.

たとえば私のランドナーに付けているスプロケットは13-14-15-17-19-21-23-26の8段だ.トップに近い側の隣り合うギヤの歯数差は1と小さいが,ローに近い側でのそれは2や3と大きい.私の例に限らず,ほとんどすべてのスプロケットにはこの傾向がある.なぜか.それは多くの場合,自転車の転がり抵抗の変化にともなって1段ずつ変速するとき,足の疲労の変化をできるだけ抑えようという狙いがあるからだ.

精神物理学という分野にウェーバー-フェヒナーの法則(Weber-Fechner laws)がある.これは人間が受ける物理的刺激の変化とそのときの視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚といった感覚の変化の関係をあらわし,「刺激の物理量に対して,感覚はその対数に比例した量を知覚する」というものだ.つまり,ペダルを踏む負荷が一定の比で変化すれば,足の疲労は一定の差に感じられる,ということ.

この「負荷」は仕事率,つまり自転車の転がり抵抗(自転車と乗員の質量,道路の勾配,タイヤと路面とのμや,各部の摩擦抵抗によって定まる値)に速度を掛けたものなので,速度に比例する*.ケイデンスが一定ならば速度はギヤ比(= F歯数/R歯数)に比例する.
* ここでは,空気抵抗による効果を考慮していない.空気抵抗には速度に比例する要素と,速度の2乗に比例する要素とがある.速度が高くなると後者の比率が大きくなる.空気抵抗による負荷は空気抵抗にさらに速度を掛けたものに比例する.

一方,道路の勾配やμが変化すると,転がり抵抗も変化する.そのとき,その逆の比率で速度,つまりギヤ比を変化させれば,同じケイデンス,同じ負荷を維持できる.当然,足の疲労の程度も維持できる.したがって,転がり抵抗が変化してもケイデンスと足の疲労を一定に保つには,転がり抵抗の変化に対応できるギヤ比の範囲を確保した上で,転がり抵抗の変化に反比例してギヤ比を変化させればよい.

その際,理想的には自動車のCVTのように無段階で回転比を変化させたい(これがスマートにできたら自転車の構造が変わるだろう.ただしCVTにも固有の問題がある).しかし自転車のチェーン駆動機構はそうなっていない.変速の前後でどうしても目標のギヤ比からずれる.そのずれによる足の疲労の変化量を,転がり抵抗が小さい条件でも大きい条件でも,できるだけ小さい一定値以下にとどめたい.そのためには隣り合うどのギヤの比(= 大歯数/小歯数)も,できるだけ小さい一定値以下にすればよい.

つまり,変速の前後での足の疲労の変化をできるだけ抑えるには,スプロケットを多段化し,ギヤ歯数を等比数列になるように配列すればよい.結局,スプロケットの歯数配列は等差数列ではなく等比数列にすることが望ましいということだ.

とはいえ,ギヤ歯数は整数から選択しなければならない.たとえば前出の私のランドナーに付けている8段スプロケット13-14-15-17-19-21-23-26は,本当なら13-14.35-15.84-17.50-19.32-21.33-23.55-26にしたい.公比は26/13 = 2の7乗根1.104である.しかし歯数を非整数にはできない.それではこれらの数に近い整数をとって13-14-16-18-19-21-24-26としてはどうか.私はこれがよい考えだとは思わない.というのは,階差数列が1-2-2-1-2-3-2と,単調増加にならないからだ*.16-18と2差で増えた次に18-19と1差に戻る.21-24と3差で増えた次に24-26と2差に戻る.どちらも不自然だ.この階差数列を入れ替えて単調増加の1-1-2-2-2-2-3とすると,結局現状の配列を裏づけることになる.次に述べる視覚的評価方法によっても,この判断が妥当であることがわかる.
* 公比 > 1の等比数列の階差数列は必ず単調増加になる.ここで単調増加とは広義のそれであり,第n+1項は第n項より小さくならないという意味だ.


スプロケットの歯数配列を等比数列に設定することを拡張して,ギヤ比の配列を等比数列に設定すれば,Fギヤを変速しても同じ軸で評価できる.ギヤ比配列が等比かどうかをチェックするには,ギヤ比を対数軸にプロットして,それらの間隔が一定かどうかを見ればよい.

私のランドナーのギヤ比配列をそのように図示したのが図1だ.左列はFギヤがアウター48T,中列がセンター38T,右列がインナー28Tだ.各列では一番上がスプロケット トップ13T,以下14,15,17,19,21,23,一番下がロー26Tだ.同一列中のギヤ比配列はグラフ上で完全な等間隔ではないものの,等間隔に近い状態になっている.隣接ギヤの歯数差が同じところ(1ずつ:13-14-15,2ずつ:15-17-19-21-23)で,ギヤ比の対数間隔が徐々に狭まる.隣接ギヤの歯数差が広がるところ(1→2:14-15-17,2→3:21-23-26)で,ギヤ比の対数間隔が広がる.このように,ギヤ歯数が整数である制約のために,完全な等間隔は実現できない.このグラフではまた,Fを変速するとき,Rを同時にどう変速すれば,スムーズなギヤ比に移れるかという例を示している(矢印).もちろん,これ以外のシフト パターンを選ぶこともできる.

図1を見ていると,あれこれと考えが浮かんでくる.もしかしてFセンター38Tは,なくてもいいのか? たしかに,たとえばF48/R23からF28/R15に乗り移れば,F38Tは不要に思える.しかし,仮にそのようにFをダブルにしたとき,アウターとインナーの切り替えポイント付近で,チェーンのたすき掛けの影響が強くなり,音鳴りやチェーンの負荷が大きくなる.またF変速に合わせておこなうR変速の段数が多くなってスムーズさに欠ける.Fのアウター/センター/インナーのギヤ比の守備範囲が大きくオーバーラップしていることは一見冗長に思えるし,Qファクターの観点からもFの段数を減らしたいが,この冗長さはとても有効なのだ.私は体感で乗車時間の95%でFセンターを使っていて,このF38Tは万能だと思っている.ちなみに,アウターは4%でインナーは1%だ(しかし稼働率は低くても存在するという意義は大きい).Qファクターの議論は知っているが,自分のような乗り方では影響を感じたことはなく,問題視していない.


さて,ここでやっと以前の記事「自転車を見て/自転車に乗って考えること」の説明をしよう.まずはその記事のその部分をもう一度示しておく.

……かつて,ボスフリーの段数が少なく歯数間隔が粗かったので,その1段の半分の変化率になるようにFギヤのアウターとインナーの歯数をとり,FDとRDを交互に操作するやり方などもあった.たとえば6段フリー13-15-17-19-21-23の平均変化率(23/13の5乗根 = 1.121)の平方根1.059の変化率になるようにFギヤを設定(50-47)する.しかし実際これをダブルレバーで交互シフトするのは本当に面倒くさく,ギヤ比範囲が(Fのアウターとインナーが近接するので)大きく取れず,勾配変化が小さいコースでしか使えなかった.……

自分でもこの表現はわかりにくいと思うが,ていねいに書こうとすると今回の記事になってしまうので,省略してしまった.この記事で言いたかったことを図2に端的に示した.このギヤ設定によって実質的にF50T,R13-14-15-16-17-18-19-20-21-22-23-24Tというクロスレシオ12速を実現することができる.しかし,前回記事でも書いたが,F50TからF47Tへの1段のシフトダウンはFDの1操作でできるが,F47TからF50TへのそれはFDとRDの両方を操作する必要がある.シフトアップはこの逆順になる.ダブルレバーの時代(私は今もそうだが)にこれをやるのは面倒だった.

ここに示した例はロード用だが,ツーリングでも自分はやっていた.それはミヤタ エディーメルクス キャンピングで,F48-44-34,R14-17-20-24-28というものだった.Fのアウターとセンター,それにRの5段をジグザグに駆使してシフトしたが,そのうちめんどうになってRD操作しかしなくなった.断っておくが,このギヤ設定は自分でアレンジしたものではなく,購入した状態でのものだ.

図2 F50-47 × R13-15-17-19-21-23

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